【追記あり】年金制度改革法案に関して:短時間労働者の厚生年金加入拡大へ
年金制度改革法案に関して:短時間労働者の厚生年金加入拡大へ
2025年の通常国会に向けて、厚生労働省が準備を進めている「年金制度改革法案」の概要です。この法案は、短時間労働者が厚生年金に加入しやすくなるよう大幅に見直しを図る内容となっています。本記事では、この改革案の具体的なポイントを解説し、その影響を整理します。
1. 企業規模要件の廃止
これまで、厚生年金の加入要件は従業員数51人以上の企業に限定されていました。しかし、この要件は段階的に緩和され、最終的に2029年10月に完全廃止される予定です。
2027年10月: 要件が「従業員51人以上」から「21人以上」に緩和
2029年10月: 企業規模要件を完全廃止
この改正により、従業員数が少ない企業で働く短時間労働者も厚生年金に加入するようになります。
2. 「106万円の壁」の撤廃
短時間労働者が年収106万円を超えると社会保険料の負担が発生するため、労働時間を抑える「106万円の壁」が問題視されていました。この要件も撤廃され、法案成立後、約3年以内に導入される予定です。この変更は短時間労働者にとって働きやすい環境を作るだけでなく、人手不足に悩む企業にもメリットをもたらします。
3. 厚生年金の対象業種を全業種に拡大
現在、厚生年金の加入対象は従業員5人以上の個人事業所において17業種に限定されています。しかし、2029年10月にはこの制限も撤廃され、全ての業種が対象となる見込みです。この改革により、約200万人の労働者が新たに厚生年金に加入できるようになると推計されています。
4. 手取り減少対策
社会保険料の増加により手取り額が減少する懸念を軽減するための支援策も用意されています。特に年収151万円未満の短時間労働者に対しては、企業が保険料の一部を肩代わりし、その費用の一部を還付する仕組みが導入されます。この特別措置は従業員50人以下の企業や5人以上の個人事業所を対象に、3年間限定で実施される予定です。
5. 基礎年金の底上げ
国民全員が受け取る基礎年金(国民年金)の底上げも議論されています。この財源には、厚生年金の積立金が活用される見込みです。しかし、具体的な実施時期や内容は、2029年以降の経済状況を見ながら判断される予定です。
6. 在職老齢年金制度の見直し
高齢者が働きながら年金を受け取る際、一定の収入を超えると年金が減額される「在職老齢年金制度」の見直しも行われます。2026年4月からは、年金が減額される基準額が現行の月50万円から62万円に引き上げられます。
まとめ
今回の年金制度改革は、短時間労働者や高齢者にとって大きなメリットをもたらす内容です。特に、短時間労働者の厚生年金加入拡大や高齢者の働きやすい環境整備は、少子高齢化が進む日本において重要な課題に対応したものといえます。一方で、企業側には保険料負担の増加という課題が生じるため、これをどのように乗り越えていくかが鍵となるでしょう。
今後も、法案の審議状況や詳細な制度設計について注視していくことが重要です。
【追記 2025.01.30】
短時間労働者の厚生年金加入要件の変更について
厚生労働省は、短時間労働者が厚生年金に加入できる企業規模の要件を撤廃する時期を、当初予定していた2029年10月から2035年10月に延期する案を自民党に提示しました。この変更は、企業の負担を軽減するためのものです。
【段階的な拡大スケジュール】
2027年10月:従業員36人以上の企業が対象
2029年10月:従業員21人以上の企業が対象
2032年10月:従業員11人以上の企業が対象
2035年10月:企業規模の制限を完全撤廃
【個人事業所への適用】
2029年10月から、従業員5人以上の新規事業所は全業種で厚生年金の適用対象
既存の個人事業所については、当面の間、任意加入
【企業負担の増加への対応策】
従業員の保険料負担を抑えるため、企業側がより多く負担できる仕組みの導入を検討
「働き控え」(負担増を避けるために就労時間を減らす動き)を防ぐための対策を実施
【基礎年金の引き上げについて】
法案には規定するが、実施時期は2029年以降の経済状況を見て判断
厚生労働省は、この案について与党と協議を進め、今の国会で法案を提出する予定です。