アメリカン・エクスプレス・インターナショナル事件における配置転換と損害賠償の判断
アメリカン・エクスプレス・インターナショナル事件における配置転換と損害賠償の判断
アメリカン・エクスプレス・インターナショナルに勤務する従業員に対する配置転換をめぐり、均等法や育児・介護休業法に基づく損害賠償請求が認められた事例について解説します。ここでは、事件の概要や判決内容、企業の人事管理における留意点をわかりやすく説明します。
事件の概要
控訴人は2008年に契約社員としてアメリカン・エクスプレス・インターナショナルに入社し、2010年に正社員、2014年にはチームリーダーとして勤務していました。その間、2010年から2011年、さらに2015年から2016年にかけて育児休業を取得しました。
復職後の2016年、会社は組織変更を実施し、控訴人の所属していたチームを廃止。控訴人は新たに設立されたチームのリーダーに配置されましたが、このチームには部下が一人もいない状況でした。その後も組織変更が続き、控訴人のリーダーシップは最低評価とされました。この処遇が男女雇用機会均等法9条3項、育児・介護休業法10条、および公序良俗に反するとして提訴に至りました。
本件では損害賠償請求のみが争点となりました。
判決内容
東京高等裁判所の判断
「配置転換が経済的な不利益を伴わない場合であっても、業務内容が大幅に変わり、将来のキャリア形成に悪影響を及ぼす場合は労働者に不利益な処遇にあたる」と指摘しました。
特に控訴人を部下のいないチームリーダーとしたことについて、「育児休業による長期のブランクや育児負担を考慮した結果である」と判断。この措置が均等法や育児・介護休業法に反するものとし、一審の控訴人敗訴判決を覆して損害賠償請求を認容しました。
判決の解説と企業への示唆
本件では、産休や育休後に復職した従業員の配置転換が焦点となりました。会社側の組織変更自体は合理性が認められたものの、新たに設置されたチームで部下を配置しなかった点が問題視されました。
不利益扱いの判断基準
給与や手当に変動がなくとも不利益となり得る
配置転換が将来のキャリア形成に悪影響を与える場合、不利益扱いに該当します。通常の人事異動とイレギュラーな対応の違い
経営判断による合理的な人事異動は問題とならない一方で、イレギュラーな措置については具体的な理由が説明できなければ訴訟で不利となる可能性があります。
企業の対応策
復職者を対象とした配置転換や人事評価を行う際には、以下の点に留意する必要があります。
配置転換の理由を明確化
組織変更や配置転換の根拠を客観的に説明できる資料を準備すること。キャリア形成への配慮
復職者が今後のキャリアを積み重ねられる環境を整えることが重要です。事前のコミュニケーション
配置転換に際して従業員と十分に話し合い、納得感を得ることが防止策となります。
まとめ
本判決は、復職後の人事対応が労働者のキャリア形成に与える影響を慎重に検討する必要性を改めて示したものです。企業は均等法や育児・介護休業法を踏まえた人事政策を策定し、不利益扱いとならないような配慮を徹底する必要があります。